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グラスヒュッテ時計産業、不屈の物語 ~分断と統合、そして光~ドイツの小さな谷間にある静かな街、グラスヒュッテ。
そこは、時間を解き明かす職人たちの魂が息づく場所でした。
彼らの手から生み出される時計は、単なる時を刻む道具ではなく、魂を持った芸術品。
この街の運命は、特にグラスヒュッテ・オリジナルというブランドの壮絶な歴史と深く結びついています。
破壊と再編 第二次世界大戦後の試練
グラスヒュッテの時計製造の物語は、1845年にフェルディナント・アドルフ・ランゲが工房を設立したことから始まります。
彼の先見の明と卓越した技術は、この地を瞬く間に時計製造の中心地へと変貌させました。
しかし、20世紀に入ると、世界は激動の時代を迎えます。
特に第二次世界大戦末期、1945年の連合軍による爆撃はグラスヒュッテの街を壊滅させ、
多くの工房が瓦礫と化しました。かつての輝かしい時計産業の基盤は、崩壊の危機に瀕していたのです。戦後、ドイツは東西に分断され、グラスヒュッテは社会主義国家である東ドイツに組み込まれます。
この厳しい情勢下、1951年、東ドイツ政府の政策により、グラスヒュッテに残されていた全ての時計製造会社は、例外なく統合されることになります。
こうして設立されたのが、「グラスヒュッテ国営時計会社」、正式名称「Glashütter Uhrenbetrieb GmbH、通称「VEB GUB」でした。同じドイツ時計のA.ランゲ&ゾーネなども、この国営企業の管理下に置かれ、その名を一時的に失うことになります。
それは、自由な競争とは無縁の時代でした。西側諸国との経済的な隔絶、計画経済、そして物資不足という厳しい制約の中で、
職人たちは時計製造の伝統を守り抜くために奮闘しました。彼らは与えられた環境の中で創意工夫を凝らし、技術の継承と向上に努めたのです。
この国営企業の時代こそが、後のグラスヒュッテ・オリジナルが持つ多様な製造技術と、
全ての部品を自社で手掛ける「マニュファクチュール」としての基盤を培う重要な期間となりました。
壁の崩壊、そしてグラスヒュッテ・オリジナルの再生
そして、歴史の大きな転換点が訪れます。
1989年のベルリンの壁崩壊は、東ドイツに自由化の波をもたらし、長年の社会主義体制に終止符が打たれました。
1990年の東西ドイツ統合を経て、グラスヒュッテの時計産業にも新たな夜明けが訪れます。
国営企業から解放されたグラスヒュッテの時計製造は、再びそれぞれの道を歩み始めました。
かつて独立した名門であったA.ランゲ&ゾーネは、創業者の曾孫であるウォルター・ランゲの手によって劇的な復活を遂げ、
最高峰の時計ブランドとして再びその名を轟かせます。一方、VEB GUB、つまりグラスヒュッテ時計製造会社として培われた製造技術と伝統を受け継ぎ、新たな息吹を吹き込まれたのが、
グラスヒュッテ・オリジナルです。1994年、この再建の指揮を執ったのは、時計コレクターとしての情熱と、細密機械工学・経営学の知識を併せ持つ
実業家、ハインツ・W・ファイファー氏でした。
彼はVEB GUBを買い取り、正式に「グラスヒュッテ・オリジナル」というブランド名で再出発を切ります。
ファイファー氏のリーダーシップのもと、彼らは国営企業時代に統合された多様な時計製造技術と、
何よりもグラスヒュッテの地に根差した職人たちの魂を継承し、
設計から製造、組立、そして品質管理まで、時計製造の全ての工程を自社工房で行う「真のマニュファクチュール」としての道を追求しました。そして2000年には、世界的な時計グループであるスウォッチグループの傘下に入り、その影響力を国際的に拡大していきました。
グラスヒュッテの魂 歴史を刻むブランド
グラスヒュッテ・オリジナルは、激動の時代を乗り越え、国営化という特殊な歴史的背景の中で培われた技術と伝統を現代に伝える唯一無二の存在です。
彼らの時計には、戦火、分断、そして再統合というグラスヒュッテの街が経験した壮絶な物語が刻み込まれています。A.ランゲ&ゾーネが一度途絶えた伝説を蘇らせた一方で、
グラスヒュッテ・オリジナルは、困難な時代の中でも途切れることなく技術を継承し、その魂を守り抜きました。
それぞれ異なる道を歩みながらも、グラスヒュッテという街の豊かな時計製造の歴史と、
そこに息づく職人たちの揺るぎない情熱を共に象徴していると言えるでしょう。prev.next.取り扱い店舗
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